パネルディスカッション
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パネルディスカッション
「表現の自由と平和について」
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大熊
/第九がここでつながってきましたねぇ。実は、この第九は抵抗の歌なんだという、実は、チェコでもあり、チリでもあり。つながってきちゃうんだなぁと思いましたけど。そうねぇ、時間延びるよね。(笑)
(そろそろ終了予定時間に近づいているが、まだまだ終わりそうにない。)
延びるけど、今そうやって第九という話も聴きながら、ここで抵抗の音楽もやってきた。木津さん、抵抗とは別の面で音楽が活躍してしまったという、ショスタコーヴィチやワーグナーという話も、ちょっと聴きたいんですけど。
木津
/そうですね。表現という点で、もちろんショスタコーヴィチも、実はですね、スターリン政権に睨(にら)まれた時期があります。で、睨まれるということは、今度は作品が書けなくなって、自己を表現する場がなくなるということを恐れて、ここが音楽家ならではの表現の自由というものと、いわゆる政治への抵抗だと思うんですが、表向きは、政治家なんて音楽分かるわけないから、表向きは、「スターリン政権すばらしい」という賛歌の思いを込めて、あと、ロシア革命20年後の記念というところで、交響曲の第5番「革命」と呼ばれる作品を作曲しております。
表向きには「スターリン政権すばらしい」、とくに第4楽章なんかにそういうことが書かれているんですが、実は、そこにショスタコーヴィチがただ作品を書かなかったぞという、メッセージが残されているのはなぜかということが、ひとつ言われています。それは、一番有名な第4楽章。ティンパニーが活躍する曲なんですけども、第4楽章の中にはですね、全然違う作曲家ビゼーの作曲したオペラ「カルメン」の中の一番有名な「ハバネラ」という曲。「私を信じちゃいけませんよ」という。ショスタコーヴィチは、過去の作曲家を引用して作品を作るということを、多く好んでやっていました。実はその第4楽章の中に、「ハバネラ」の「私を信じちゃダメよ」という歌詞をトランペットが演奏してるんです。そのフレーズを。そして、バイオリンが、なぜだか知らないんですが、第4楽章最後で、ひたすら「ラ」の音を弾き続けるんです。
これがなぜかと言いますと、「ラ」というのは、これ私調べたんですが、古いロシア語の発音では、「リャ」という。「リャ」というのは、「私」という意味を指すんだそうです。ですので、その「ハバネラ」の「信じちゃいけないよ」ということに「ラ」が重なる。「私を信じちゃいけないよ」という、一見「現政権すばらしい」という賛歌の内容でありながら、裏で、「何やってんだ。こいつ。音楽のことも知らないくせに。」というような皮肉を交えて演奏されたというのが、このショスタコーヴィチの5番。という作品なんです。
大熊
/はぁ。政治家は気づくはずもあるまいと。
木津
/そうです。
大熊
/実は、そんなメッセージがありましたと。
木津
/ありました。
大熊
/はっはっは、おっかない遊びをしますねぇ。(笑)
木津
/ギリギリのところで遊んでいますが、ショスタコーヴィチも、いろいろ苦悩があったりして、比較的人数が多くはない弦楽四重奏の場でも、15曲作品を残してますが、彼を語るにはどうしても外せないもうひとつの曲が、実は弦楽四重奏の第8番。これは、ショスタコーヴィチ、本名は
ドミトリイ・ショスタコーヴィチ
と言います。この自分のイニシャルを音に入れました。今ちょうどピアノがあるので、その音を実際に弾きますが。
ドミートリイ・ドミートリエヴィチ・ショスタコーヴィチ :
Дмитрий Дмитриевич Шостакович (Dmitrii Dmitrievich Shostakovich)
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Dというのはピアノでいうと「レ」です。Sは音楽用語では「ミのフラット」を指します。そして、ロシアの作曲家のショスタコーヴィチなんで、最後はCHで終わりますんで、Cというのは「ド」、最後のHは「シ」。非常に近いところの音を使って、自分の内面を書いています。
これは、ショスタコーヴィチが、やむなく共産党員にならなくてはいけなかった。それと、ソビエト軍のドレスデン侵攻に対して、音楽を作りなさいということで、実際に戦地へ赴いて、そこで戦争の悲惨さを目の当たりにした。それと、自身が置かれた、自分の本意ではない共産党員になるという行為、そういった葛藤・苦悩というものを自らのイニシャルを使うことで、より深く内面を表現するという作品を今に残しているというのが、この弦楽四重奏曲第8番です。
大熊
/はい。知らなかったなぁ。
木津
/なかなか、音楽と政治は隣り合わせか、もしくは、かなり深いところまで足が入っている関係ではあるんですけど、最後に、その音楽が、良くも悪くも利用されてしまった。これが先ほどお話した、ワーグナーとヒットラーの関係ですね。
直接的に、ヒットラーとワーグナーとは関係あるわけではありません。ただ、ヒットラー自身は、ワーグナーの音楽が大好きでありました。そういったワーグナーの音楽を信奉している人を、「ワグネリアン」という専門の言い方があります。
ワーグナーの作品を信奉していたヒットラーは、ゲッペルス宣伝大臣に頼んで、ことあるごとに、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」であるとか、「パルジファル」とか、「ローエングリン」とか、要所要所で国民に対して何かを発表するときには、ワーグナーの曲を使って、いわば国民を半洗脳状態に追いやった部分でもあります。
実は、ヒットラーとワーグナーの関係というものが影響しているのは、イスラエル。ワーグナーは、もともと反ユダヤ主義ですので、ユダヤ人に対して非常に迫害的な考えを持っているんですけど。イスラエルにおいては、ワーグナーの音楽を演奏することが禁じられています。とは言っても、最近、2000年代に入りまして、
ダニエル・バレンボイム
という指揮者が、イスラエルフィルでワーグナーの音楽を演奏しました。非常にニュースになりました。賛否両論入り乱れております。いまだに、イスラエルでは、ワーグナーの音楽を演奏することは、基本的にはタブーというふうにされています。
ダニエル・バレンボイム (Daniel Barenboim/1942~) : アルゼンチン出身のユダヤ人ピアニスト・指揮者。現在の国籍はイスラエル。(出典:Wikipedia)
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